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東京高等裁判所 昭和40年(行ケ)104号 判決

原告

ベンガア・ラボラトリイス・リミテッド

右代表者

コルネリイス・コリンズ

右代理人弁護士弁理士

中松澗之助

外二名

被告

エーザイ株式会社

右代表者

内藤豊次

右代理人弁理士

高木六郎

外一名

主文

特許庁が、昭和四十年五月二十四日、同庁昭和三八年審判第九号事件についてした審決は、取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一、特許庁における手続の経緯

原告は、昭和三十七年十二月二十二日、被告が特許権者である第二五七、三一二号、名称を「金属デキストランコロイド液の製造方法」とする特許につき特許無効の審判を請求し、昭和三八年審判第九号事件として審理されたが、昭和四十年五月二十四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年六月五日原告に送達された(出訴のための附加期間三か月)。

二、本件特許発明の要旨

デキストランと金属の水溶性塩とを水溶液として、アニオン交換樹脂に接触させ、前記水溶性金属塩の陰イオンを水酸基イオンに置換し、同時に共存するデキストランによつて安定なコロイド液となし、さらに必要に応じ、このコロイド液を濾過後濾液を濃縮し、無害な等張化剤を加え滅菌することを特徴とするデキストランコロイド液の製造法。

三、本件審決理由の要点

本件特許発明の要旨は、前項掲記のとおりと認められるところ、本件特許発明の特許出願前公知のスエーデン国特許第一五一、〇三八号明細書(第一号証。以下「引用例」という。)には、デキストラン金属の水溶性塩及びアルカリから金属―デキストラン複合体を製造する方法が記載され、本件特許発明と引用例記載のものとの実質的な差異は、前者が酸根離脱剤として特にアニオン交換樹脂を使用するに対し、後者はアルカリを使用する点にある。この差異につき検討するに、前者の「アニオン交換樹脂法」は、少なくとも後者の「アルカリ法」によつては回避することのできない副生中性塩の除去処理を必要としない点において優れた効果を奏することは明らかであるから、たとえ甲第二号証ないし第五号証により陰イオン交換樹脂を使用する金属水酸化物の製法自体は本件特許出願前公知であるとしても、これによつて本件特許発明の進歩性が否定されるものとすることはできない。なお、甲第六号証及び第七号証の宣誓書は、本件特許明細書に記載するその発明の効果を否定するに足るものではない。〈後略〉

理由

(争いのない事実)

一、本件に関する特許庁における手続の経緯、本件特許発明の要旨及び本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二、本件における事実上の争点が本件特許発明において、酸根離脱剤としてアニオン交換樹脂を使用したことにより、副生中性塩の除去処理を必要としないことが引用例記載の方法及び本件特許発明出願前周知の技術に比し、顕著な効果といえるかどうかにあることは、本件における当事者双方の主張に徴し明らかなところ、酸根離脱剤としてアニオン交換樹脂を使用することが本件特許発明の出願前周知の技術手段であること及びアニオン交換樹脂法による場合には、アルカリ法による場合に生ずる副生中性塩を生じないことが本件特許発明の出願前周知であつたことは、被告の認めて争わないところであり、したがつて、アニオン交換樹脂法による場合には、副生中性塩除去処理の工程を必要としないことは明白であるから、本件特許発明における副生中性塩の除去処理工程を必要としないという事実は、本件特許発明の出願前周知の技術手段である「アニオン交換樹脂法」のもたらす当然の効果であり、したがつて、当業者の当然予想しうべき効果というほかはなく、もとより、金属デキストランコロイド液製造法としての本件特許発明における顕著な効果とすることはできない。はたしてしからば、この効果をもつて、本件特許発明のもつ優れた効果であるとした本件審決は、この点において、その認定を誤つたものというべく、この認定を前提として、引用例記載の方法及び周知の技術手段からその進歩性を否定しえないとした本件審決は判断を誤つたものであり、違法として取り消されるべきものである。

(むすび)

三、叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)

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